2015年8月15日土曜日

「図書館危機」有川浩 (角川文庫)



「これを見るがいい!」
 徒花スクモの手になる、ポップで可愛らしいイラストが描かれた表紙を灰原は指差した。そこにはミリタリー系の服を着た女性が通信機を口元にあて、何かを声高に叫んでいるような姿が描かれている。
「ただのラブコメものであれば、このようなイラストが必要であろうか。否、断じて必要ではないはずだ。確かにラブコメ要素は強いと言わねばなるまい。前巻では笠原郁言うところの王子様が実は堂上であった、などという筋書きは、読み手にしたら『何を今さら。そのくらいの展開は読めておるわ』と言いたいところであるのは、共感して止まぬ。だがそこだけを指摘して、底の浅い物語だと断じることができようか。いや、できまい!」
 にやにやした笑いを顔に浮かべて、はるのっちは灰原の演説に聞き入っている。灰原はそんなはるのっちを意にも介さず、滔々と語り続けた。
「笠原郁が戦うのは、何もメディア良化委員会やその実行部隊である良化特務機関、良化法賛同団体だけではない。一つのコミュニティに発生する人々の軋轢や小競り合い、さらには親が子供に懸けてくる勝手な理想や期待とも戦うのだ」


 はるのっちはここで小さく手を挙げ、先生に対する生徒のように抗議の声を上げた。
「親の理想や期待と戦うのに、通信機や戦闘服は必要ないと思うんですけど」
「うるさい。黙れ、オカマ野郎。あれは強調表現だ。戦うということを、あの姿で象徴しているにすぎんのだ」
 灰原は間髪入れずにその抗議を切って捨て、話し続けた。
「生じてしまった親子の確執が、そう簡単に和解に至るのかと言えば、そんなことはあり得ない。そのくらいは俺だって自身の経験から知っている。それが現実だ。だがその現実は望まれるべき現実なのか? 本音はどうなのだ。できることなら和解して、親に自分を生んで育ててくれたことを感謝したい気持ちがあるのではないのか。この物語はその願望を、夢物語とはいえ疑似体験として叶えてくれているのだ。それの一体何が悪いというのか」
「でもさぁ……」
 どうしても納得できないという様子で、口を尖らせてはるのっちは言った。
「堂上が電話口で郁とやり取りする場面でさ、『ポン』っていう頭を軽く叩くような擬音を口に出すのは、ちょっとやりすぎじゃない? あそこ読んだ時は『ないわーwww』ってなったもん」
「うん。まぁ、あそこは俺もそう思った。大体それまでのキャラとして、堂上はそんなことをするキャラじゃなかったからな。男視点としては、臭い。臭すぎる。そんな男いねーよ、という印象が残ったな」
 戦い云々について話していた灰原であったが、さすがにこの場面はないと思っていたのか、ラブコメ要素の箇所だというのに、ついはるのっちの意見に同意を示してしまった。(続く)

読書期間:始)2015.4.20 ~ 終)4.22
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