2014年10月10日金曜日

「羊たちの沈黙」トマス・ハリス (新潮文庫)



 先に映画を観た上で、その魅力に捕らえられました。そして小説の方も読了しての感想です。
 この作品は小説よりも、映画の方が優秀な作品のように思えます。それにしても映画と小説で、何故にこうも後味が違うのでしょう。
 筋や結末は当然同じです。大きく違うのは人物の描写に関してかと思われます。映像化されたレクター博士と文字だけで描かれたレクター博士。私には、前者のレクター博士の方が魅力的に思えました。

 この差は何なのでしょうか。一つは、映画の方はできるだけ博士についての説明的な描写が省略され、観る者の想像力に任せたところが大きいのではないかと思いました。「見えないもの」に対して人の心に湧く畏怖の念、そのようなものが映画のレクター博士にはあったように思われます。
 対して小説の方は、彼の天才的な推理が、最終的には経験とその記憶に拠ったもの、という結論が示されます。もちろんそれだけでは、作品中の彼の様々な言動は説明し尽くせません。ただバッファロゥ・ビルの事件についてだけで考えると、その種明かしは酷い、と思ってしまうのです。


 映画の彼を観ていると、安楽椅子探偵的な頭脳の持ち主が、その才能を犯罪に活かしているように見えてしまいます。そして、そういう場面に魅了されることを期待している自分がいることに気付きます。
 本来ならば憎むべき犯罪者であるのに、です。たとえ犯罪者でもカッコいい、と思ってしまう自分がいるのですね。だからといって、自分も彼を真似て犯罪に手を染めてみよう、などとは思っていませんので、ご安心下さい。

 小説の方のレクター博士には、そこまでの魅力が感じられませんでした。確かに、凄く恐ろしい犯罪者であることには違いないのです。ですが、ただそれだけなんです。これはたとえば、彼の心理についての詳細な描写が言葉で為されてしまったため、なのかもしれません。彼の行動の理由や心理、思惑が言葉で明示されることで、畏怖の念よりも俗な人物という印象を、読者に与えてしまったのかもしれません。

 すでに私の手元には『ハンニバル』がありますので、是非とも映画に勝るとも劣らない出来であることを願います。
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