2014年9月21日日曜日

「ローマ帽子の秘密」エラリー・クイーン (角川文庫)



 今回、角川の新訳版を読みました。ところで恥ずかしながら、推論方法の名称及びその名称の指し示す手順がどういうものか、私はよく理解してません。
 本作で作者は、演鐸法と心理の観察によって解答に辿り着けるだろうと述べています。「心理の観察」は理解できるのです。しかしもう一方の「演鐸法」というものが、どういう方法なのかがわからないのです。

 演鐸法とは、ある前提・仮定を正しいものとして、それを積み重ねる、あるいは延長して結論を導き出す推論方法、だそうです。
 本作の消えた帽子について、この方法を試してみます。
1、 被害者の帽子が見つからない。
2、 警察が退出を許すまで、劇場から出た者はいない。
3、 2から、犯人は警察の許可が出るまで、劇場から出ていない。
4、 帽子は劇場内に残っていなかった。
 
 まずここまでの前提から、帽子は犯人が持ち去ったに違いない、という小結論が導き出されます。
 次にこの小結論を前提の一つとして扱い、さらに新たな幾つかの前提を積み重ねてみます。

5、 帽子は犯人が持ち去った。
6、 劇場から出る者は全て、身体検査(持ち物検査)を受けた。
7、 6の検査では、誰も余分に帽子を持っていたり、荷物として持ってはいなかった。
 以上から、犯人は帽子を自分の物として、頭に被って出て行ったに違いない、という結論に至ります。つまり犯人は、劇場を出る際に帽子を被っていた者である、ということになります。
 さらに帽子はシルクハットなので、自然な装いをするには必然的に夜会服を着用していただろうことが、推論で導かれます。


 さて、これらの手法が演鐸法と呼ばれるものなのでしょうか。しかしこのやり方では、本作では最終的に犯人を特定することはできないはずです。ちなみに私はこの時点で、消去法で消せる候補者は消した上で、犯人をある一群に絞り込むことができました。但し、特定まではどうしても不可能だったのです。

 考えてみて下さい。「5、帽子は犯人が持ち去った」という条件は、飽くまで推測であって、事実ではないのです。
 もしも役者の誰かが犯人であったような場合、舞台裏の楽屋か衣装部屋にこっそり帽子を持ち込み、劇で使われる小道具用の帽子に紛れ込ませる、ということも可能なのです。この小説のアンフェアな点は、ここにあります。楽屋と衣装部屋を調べた結果が、即ち結論に至るに必要な条件が、事前に十分に提示されていなかった、ということなのです。
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