2014年7月6日日曜日

「後巷説百物語」京極夏彦 (角川文庫)



 百物語三部作のエピローグ的位置付けの1冊です。連作の体裁はそのままで、語り手もお馴染みの山岡百介です。これまでと大きく違うのは時代です。語り手の百介が遠い昔を振り返って、自らが見聞きした不思議を、明治の若者達に話して聞かせます。百介が最後に又市の仕掛けに関わってから、実に四十年の歳月が過ぎているのです。

 八十歳になった百介が語る不思議とは、もちろん又市の仕掛け話のことです。但し、若者達は仕掛けについての説明は、一切聞かされません。飽くまで、不思議としか思えない話としてだけ聞かされます。仕掛けの種明かしについては、話の締め括りに百介が独白する形で真相を思い返すか、あるいは又市の忘れ形見である娘、小夜に話して聞かせるだけです。


 「後巷説」で一番注目したいのは「五位の光」かと思います。この一話は後に「風の神」という一話にも繋がること、小夜の正体が仄めかされること、そして京極氏の別シリーズ(百鬼夜行シリーズ)の「狂骨の夢」と「陰摩羅鬼の瑕」にも繋がる話でもあります。又市の仕掛けが時代を超えて、昭和の舞台で起きる事件の遠因になることを思うと、感慨深い気持ちになります。しかし別シリーズのことは、ここでは触れないでおきます。

 大切なのは本作が、「巷説」と「続巷説」を加えた百物語三部作を締め括るエピソード集だということです。加えて、ここに至って初めて、百介自らが体を張って、最初で最後の絡繰り仕事を行うという点にも注目したいと思います。百介はその時にようやく初めて又市と同じ世界に足を踏み入れることができたのです。それまでは垣間見ることはあっても、決して立ち入れない結界だったのです。

 最後の最後に百介は、「惰性の生」と云う死から甦り、己の生を全うすることができたのです。百介の最期の笑みは、そういう満足感・充足感から零れ出たものではないかと、私は思います。
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