2012年4月27日金曜日

「シャーロック・ホームズ傑作選」アーサー・コナン・ドイル (集英社文庫)



 映画の? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回は映画じゃなくて小説の方。
 武闘派ホームズの映画もよかったけど、やっぱり本家ホームズもよかったです!
「ボヘミア王家のスキャンダル」「赤毛連盟」「花婿の正体」
「五つぶのオレンジの種」「ゆがんだ唇の男」「まだらの紐」
 初期の短編6話が収録されたもので、ホームズのもともとの設定が良く分かる内容です。

 ワトスンいわく「推理や観察にかけては、たとえようもない完全な機械だったが、恋などはまるで場違いな役柄だった。優しい心情など、嘲りや皮肉をまじえずに口にしたこともない」人物。それが本来のホームズ。
 あくまでも恋愛に限った話というわけではなく、一般的な人付き合いという点でも一切の社交をさける生活をしていて、なおかつホームズ自身、友だちはワトスンだけと述べる部分があるほどの、いわゆる変人です。そういう意味では武闘派ホームズの方が本来の設定に近いのかもしれない。

 ただよくあることとは思うのですが、初期の設定が回を進めるごとに徐々に変化してくるんですよね。人生や人情の機微に非常に精通している人格者のようなキャラになってくるんです。まぁ、その辺は人気作品になるにつれて、より大衆受けしやすいキャラになっていったのかな~という予想はすぐできますし、仕方のないことかもしれませんね。


 起こる事件の内容であったり、意外な犯人の正体であったり、密室トリックであったり、推理の進め方であったりは、今の人が読めば簡単にオチがわかるようなものばかりで、推理もショボッ! と言いたくなるようなものばかりですが、逆ですからね。順番としてはこちらが先で他の作品がホームズを模倣、または盗作まがいのことをして現在に至ってるだけですから。

 できた時代を考えてみましょうよ。
 はじめてシャーロック・ホームズが登場する小説が書かれたのが1886年。その頃、日本は明治19年。その9年前に西郷さんの西南戦争、その10年前に明治維新。明治になってまだ19年。少し前まで江戸時代。現在、平成24年。昭和だったのが24年前。え? 平成になってもう24年なの? っていう感覚よりももっと短い。

 そんな頃にホームズ作品では、ロンドンで地下鉄が走ってる描写があったり、銀行襲撃事件未遂があったり、新聞に広告欄があったり、タイプライターがあったりするんですよ。日本はついこの前まで江戸だったのに。

 そんな頃に推理だとかトリックだとかを扱ってて、そこで使われたネタが、推理の方法や事件の背景に学術的な手法を取り入れて、現在も使われ続けてる。
 そして何よりも慕われてるのがホームズというキャラ。変人キャラ。変人だけど事件解決の合い間に見え隠れする、人としての情。よく分からないあやふやな、その時代時代の正義よりも、自分の、または依頼人の情の方を大切にするような側面。そこに痺れて憧れるんでしょう。
 東野さんのガリレオにしても京極夏彦さんの京極堂にしても、どこか変人探偵ホームズと被りませんかね。

2012年4月24日火曜日

「アミ 小さな宇宙人」エンリケ・バリオス (徳間文庫)



 世界11ヶ国語に訳され楽しまれているおとぎ話? 児童書? 何かそんな感じの本です。
 著者の経歴紹介がまず面白い。
「エンリケ・バリオス。作家。若い頃より道を求め、世界中を渡り歩く。39歳の時、自らの使命を悟り、著述の道に入る」
 若い頃から定職に就かずに、世界中を旅してて、39歳で作家になったってことですよね。若い頃に求めていた「道」と著述の「道」は、果たして同じ意味での「道」なのか否か……。

 そんな彼が著書で言うところによると、愛が全ての問題を解決してくれるそうです。
 あらすじとしては、ある夏の夜に海辺で主人公の少年が宇宙人と出会う。その後宇宙船に乗せてもらい、一晩かけていろいろなものを見聞きし、様々なことを教えてもらうと言う話です。


 細かいところでいろいろツッコミどころ満載でした。まぁでも確かにそれができればいいんだけどねぇ、でも現実問題無理でしょ~って話が多いです。
 とりあえず世界中にある問題、たとえば環境破壊、エネルギー問題、資源問題、宗教問題、人種差別問題、その他諸々一切合切あらゆる問題は愛で解決できるんだ、という話なんですね。

 おそらくこの作者は、これまで事故・天災の類に実際に見舞われたことがないかと思われる。見舞われていないからこそ、生存してこういった著作を世に出すことができたのでしょうから。

 あと、今現在、争われている地域もあるけども、それでも大局的には危ういバランスとはいえ辛うじて均衡を保てているのは、道徳や倫理、ルール、そしてそれらの成立基盤に既存の宗教があったからこそ、という点を無視して「現在のシステムは悪い」「システムを転換しよう」「愛が一番大事だ」と言われても、やはりおとぎ話の域は出ない。

 まぁ、それでも理想がなければ、方向性が定まらないのは確かなので、こういう世界を希望するという声やビジョンは必要かと思われまする。

2012年4月20日金曜日

「緋色の記憶」トマス・H・クック (文春文庫)



 理由はいくつかあるんですけど、実は翻訳小説って苦手なんですよね。でもお薦めされたので。
 とりあえず話の出だしと終わりに顕著に出てくるフラッシュバックの技術は、巧いと感心させられました。映像では確か映画タイタニックの最初の方とか、こういう感じのフラッシュバックが使われてたような気がします。
 映像で表すための技術がどれほどの手間が掛かるのかは分かりかねますが、それを文章で表すというのは間違いなく「巧い」と言っていいと思います。

 内容的には主人公の回想を通して、事件の背景と主人公がどのように事件と関わっていったのかが描かれていきます。回想系の小説は話の進め方がまどろっこしい、もったいぶった感じになるのが難点なのですが、この小説も例に漏れない印象。

 実は読む前に登場人物の紹介ページを見ただけで、主人公が犯人に違いないと一人で勝手に決め付けて読み始めたのですが……。そういう思い込みを持ったまま読むと、最初の数ページ、いや、最初の数行で自分が何かのスタンド能力を発動させたかのような錯覚に襲われます。

 この小説には拳銃の類は出てきませんが、人間関係って互いに相手に銃口向け合ってるようなストレスがあると思うんですよね。人間関係の距離が極限に近くなる=互いのおでこに銃口を押し付けあう、そんな感じ。逆に、そこに信頼関係がある=相手が撃鉄を上げることも引き金を引くこともない、と強く思っている状態だと思います。
 もし人間関係の距離だけ近く、信頼関係がない場合はどうなるのか。考えると怖いですね。


 話が横道に逸れてしまいました。どうもすみません。
 主人公は特に何もしていません。誰が悪い訳でもない。結果として悲劇が起きてしまった。ただそれだけです。
 ただある人の拳銃の引き金に掛かった指に、自分の指を添えただけ。そして相手の拳銃はもう撃鉄が上がっていると耳元でささやいただけです。ただそれだけ。時代も時代だったし、仕方のない事故のようなものだった。
 なーんて、ぬるいことを言うつもりはない。
 悪いのはヘンリー、貴様だ。貴様が美人教師を殺したのだ。このクソガキが。

 あと、この台詞は何かで使えそう、というものを引用しておきます。
「こっちがまだ準備もできていないうちに、あれこれ決断を強いられるんだから、まったく皮肉な話さ。大事なことはみんな早々に決まってしまう。どう生きていくか、どんな仕事に就くか、誰と結婚するか」
「君は一つ一つ正しい決断をしたまえよ。ヘンリー。もし決断を誤ったら、人生は……失意に終わりかねない……なぜこんな人生を生きぬかねばならないのかと、思い悩むことになる」

 そして、この小説からの教訓。
 他人の惚れた腫れたには関わるな。